「◯日前まで」はどう数えるか — 遡る期間の末日が休日のとき、送る向きは人によって逆になる

「公売の日の少なくとも10日前までに」「株主総会の日の2週間前までに」。手続きの条文には、基準になる日から遡って期間を数える書き方がよく出てきます。

前向きの「◯日以内」なら、数え方は民法140条から142条までに書いてあります(その全体像は「3日以内」はいつ切れるかにまとめました)。ところが遡る向きには、その明文がありません。

民法の「期間の計算」に、遡る期間は1条も無い

民法の期間の計算は第1編第6章にまとまっていて、条文は138条から143条までの6条だけです。e-Gov法令検索から全文を取って読み直しました。

条中身
138条期間の計算の通則(別段の定めがあればそちらが優先する)
139条時間によって期間を定めたときは即時から起算する
140条日・週・月・年で定めたときは初日を算入しない
141条期間は末日の終了をもって満了する
142条末日が休日で、取引をしない慣習があるときは翌日に満了する
143条週・月・年は暦に従って計算する

どれも起算日から先へ数える形で書かれています。6条を続けて並べても合計503字しかなく、その中に「遡る」という語は1度も出てきません。 ひらがなの「さかのぼる」も同じです。基準日から前へ数えるときにどこを1日目とするのか、末日が休みに当たったらどうするのか。条文は何も言っていないのです。

書かれていないので、実務は別の場所を見にいきます。

数え方を明文で書いていたのは、国税庁の通達だった

国税通則法基本通達(徴収部関係)の第10条関係2に、こうあります。

前に遡る期間の計算は、法第10条第1項の規定を準用して計算するものとする。

(注) 例えば、徴収法第95条第1項《公売公告》に規定する「公売の日の少なくとも10日前までに」の場合には、その公売の日の前日を第1日として、遡って10日目の日に期間が満了する。したがって、その前日の11日目の日までに公売公告をしなければならないこととなる。

短い注ですが、遡る期間の数え方が2つとも書かれています。

  1. 第1日は基準日の前日。 初日不算入(国税通則法10条1項1号)を裏返した形です。基準日そのものは数えません。
  2. 「10日前まで」の締切は、10日目ではなく11日目。 10日目は期間が満了する日で、行為をしなければならないのはその前日です。

引き合いに出されている国税徴収法95条1項の原文も取ってきました。

税務署長は、差押財産等を公売に付するときは、公売の日の少なくとも十日前までに、次に掲げる事項を公告しなければならない。

手で数えてみる

公売の日を2026年10月20日(火)として、通達のとおりに数えます。

遡り日付
第1日10月19日(月)公売の日の前日から始める
5日目10月15日(木)
10日目10月10日(土)ここで期間が満了する(末日)
11日目10月9日(金)公告はこの日までにしなければならない

「10日前までに」という文字をそのまま引き算して10月10日と読むと、1日遅れます。 しかも、ずれていることは数えている本人の側からは見えません。公告が手続きの要件になっている場面では、この1日がそのまま瑕疵になります。

「◯日以内」のほうの初日不算入は、締切が1日延びる方向のずれでした。遡る向きでは同じ初日不算入が、締切を1日早める方向に働きます。裏返しなので当然なのですが、前向きの感覚のまま数えると逆を踏みます。

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同じ休日を、出す側は後ろへ、受ける側は前へ送る

末日が休みに当たったときの扱いは、同じ通達の第10条関係5にあります。

前に遡る期間の末日が期限とされる場合において、その日が日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日、その他一般の休日又は土曜日若しくは12月29日、同月30日若しくは同月31日(以下第10条関係において「休日」という。)に当たるときは、その休日の翌日をその期限として取り扱う。ただし、税務官庁のすべき行為にあっては、その前日までにすることに取り扱う。

本文とただし書で、送る向きが逆です。

前向きの期限では、こうは割れませんでした。民法142条・国税通則法10条2項・行政機関の休日に関する法律2条は、送る先がそろって「翌日」です(その3つの違いは期限が休日に当たったら、送るとは限らないで見ました)。向きが分かれるのは、遡る期間に入ってからです。

条文と違って通達は理由を書きません。それでも、2つの向きは同じ方針から出ていると読めます。ただし書が名指ししているのは税務官庁がすべき行為で、そこだけが前へ、つまり自分に厳しいほうへ倒れています。残りはすべて本文の側、つまり書類を出す私人の締切が後ろへ緩む側です。休日に当たったことの不利益を、役所の側が引き受ける形になっているのです。

もう1つ、この通達5は「休日」の中身を自分の中で定義しています。日曜・祝日・一般の休日・土曜日・12月29日から31日まで。1月2日と3日は、この列挙に出てきません。 出てこないのに休みに数えるのは、1つ前の第10条関係4に根拠があります。「行政機関の休日に関する法律1条1項3号に掲げる日のうち、1月2日及び3日は法第10条第2項の『一般の休日』に該当する」と書かれているのです。列挙を目で追うだけでは、年始の2日が抜けます。

開きは何日になるのか

向きが逆というのは、最大でどれくらいの差になるのか。祝日の判定エンジンで2026年を1日ずつ走らせて数えました。休みに数える日は通達5の定義(土日祝+12月29日〜1月3日)に合わせてあります。

まず、末日が休みに当たる頻度です。基準日を2026年の365日それぞれに置いて「10日前まで」の末日を出すと、末日は2025年12月22日から2026年12月21日までの365日にわたります。そのうち125日が休日でした。 およそ3日に1日はこの分岐を通ります。珍しい場面ではありません(ちなみに2026年そのものの休日も、数えると同じ125日です)。

次に、その125日それぞれについて「翌日へ送った日」と「前日まで戻した日」の開きを数えました。

開き件数
2日4件
3日86件
4日18件
6日10件
7日3件
10日4件

開きが1日で済むことはありません。 いちばん狭い2日は、平日のあいだに1日だけ挟まる祝日です。2026年なら建国記念の日(2月11日・水)、昭和の日(4月29日・水)、山の日(8月11日・火)、文化の日(11月3日・火)の4件で、前後がどちらも平日なので1日ずつ振り分けて2日になります。最多の3日は週末で、土曜が末日なら翌日へ送れば月曜、前日まで戻せば金曜です。

最大は10日で、2026年1月1日から4日までの4日が該当します。元日を末日として手でたどると、こうなります。

同じ1日を挟んで、片方は年明けの1月5日、片方は前年の12月26日。10日の開きです。

ゴールデンウィークも似た形になります。末日が2026年5月3日(日・憲法記念日)なら、後ろは5月4日(みどりの日)、5日(こどもの日)、6日(振替休日)と続いて5月7日(木)。前は5月2日が土曜なので5月1日(金)。開きは6日です。

自分の場面では、どちらで読むのか

ここまで見た数え方は、国税に関する手続きの通達です。他の法律に当然に及ぶものではありません。

それでも参照する値打ちがあるのは、遡る期間の数え方を明文で書いている例が、ほかにほとんど無いからです。同じ「◯前までに」という書き方は制度をまたいで使われています。会社法299条1項は「株主総会の日の二週間(中略)前までに、株主に対してその通知を発しなければならない」と定めていますし、賃貸借の解約予告も入札の公告も同じ形です。数え方を確かめようとして条文へ戻ると、そこには何も書かれていません。

しかも、この通達をそのまま当てられない場面があります。通達2が準用する国税通則法10条1項は、冒頭を「日、月又は年をもつて定める期間の計算は」と書き出しています。民法140条が同じ位置に並べている4つのうち、「週」だけが落ちているのです。 さきほどの会社法299条1項は「二週間前まで」ですから、数え方を明文で示した数少ない例のほうにも、そのままでは乗りません。

判断の順番は、次のようになります。

  1. 契約書・募集要項・定款に数え方が書いてあれば、それが優先します。 民法138条が「法律行為に別段の定めがある場合を除き」と自分で道を譲っています
  2. 書かれていなければ、その制度に固有の通達や解釈が無いかを見ます
  3. そこにも無ければ、基準日の前日を第1日として遡る数え方が出発点になります

そして、権利が消えるかどうかがかかっている期限は、必ず所管の窓口か専門家に確かめてください。 ここで見たのは、条文に何も書かれていないときに何を手がかりにできるか、という話です。

数えるための道具

日数計算に「◯日前までの期限」を足しました。基準日と日数を入れると、第1日・遡った末日・「その前日までに」と読む場合の期限を並べて出します。末日が休みに当たるときは、後ろへ送った日と前へ戻した日の両方と、その開きの日数を表示します。 どちらが自分に当たるかは立場で決まるので、道具の側では選びません。

前向きの「◯日以内」は同じ道具の別のモードに、月や年で数える応当日は応当日・満了日の計算にあります。

条文と通達はいずれも原文を取得して確かめました(2026年9月17日時点)。民法・国税徴収法・会社法はe-Gov法令検索から、通達は国税庁の法令解釈通達のページからです。

最終更新: 2026-09-17

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