春分の日はなぜ年によって動くのか — 祝日法が日付を書いていない二つの祝日
来年の予定表を作ろうとして、春分の日が3月20日なのか21日なのかで手が止まったことはないでしょうか。他の祝日は日付が決まっているのに、春分の日と秋分の日だけは年によって動きます。動く理由は天気や慣習ではありません。法律がそもそも日付を書いていないからです。
祝日法には「春分日」としか書いていない
国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)の第2条は、祝日を表の形で並べています。e-Gov法令検索で条文を引くと、日付の欄はこう書き分けられています。
- 天皇誕生日 — 二月二十三日
- 昭和の日 — 四月二十九日
- 建国記念の日 — 政令で定める日
- 春分の日 — 春分日
- 秋分の日 — 秋分日
ほとんどの祝日は日付そのものが条文にあります。建国記念の日は日付を政令に預けています。そして春分の日と秋分の日だけが、日付ではなく天文の言葉を置いています。
春分日というのは、太陽が黄道上の基準点(黄経0度)を通過する瞬間を含む日のことです。秋分日は黄経180度です。つまりこの二つの祝日は「何月何日」ではなく「ある現象が起きた日」として定義されています。日本標準時で何時に起きた現象かによって、日付が変わります。
十四分で日付が変わる
国立天文台が公表している暦要項から、通過の瞬間を拾ってみます。
| 年 | 現象 | 通過の瞬間(日本標準時) | 日付の境界まで |
|---|---|---|---|
| 2012年 | 秋分 | 9月22日 23時49分 | あと11分 |
| 2026年 | 春分 | 3月20日 23時46分 | あと14分 |
| 2022年 | 春分 | 3月21日 0時33分 | 33分前まで20日 |
| 2016年 | 秋分 | 9月22日 23時21分 | あと39分 |
| 2008年 | 秋分 | 9月23日 0時45分 | 45分前まで22日 |
2026年の春分は3月20日の23時46分でした。あと14分ずれていれば、2026年の春分の日は3月21日になっていたことになります。2012年の秋分にいたっては11分です。祝日が動くかどうかが、十分刻みの天文現象で決まっている状態です。
日付だけを見ていると「20日と21日を行ったり来たりする」ように見えます。実際に動いているのは時刻のほうです。1年の長さが365日ちょうどでないため、通過の瞬間は毎年6時間ほど後ろへずれ、うるう年で1日戻ります。この4年周期の階段が、たまたま日付の境界をまたぐ年に日付が変わります。
決めるのは国立天文台、確定するのは前年の2月
では、その日付は誰がいつ決めるのでしょうか。
国立天文台が暦象年表の計算に基づいて翌年の「暦要項」をまとめ、官報で発表します。発表は毎年2月の初めです。実際の日付を並べると、2025年分が2024年2月1日、2026年分が2025年2月3日、2027年分が2026年2月2日の発表でした。
ここから、日常の感覚とずれる結論が出てきます。再来年以降の春分の日は、まだ決まっていません。 この記事を書いている2026年9月の時点で確定しているのは2027年3月21日までで、2028年の春分の日はまだ発表されていません。2027年2月まで待つことになります。
祝日法の条文が日付を書かず、毎年の発表に委ねているのは、この確定の手順を法律の外に置いているからです。天皇誕生日のように条文へ日付を書き込むと、天文の計算結果と食い違ったときに法律を直す話になってしまいます。
それでも「2035年の春分の日」が検索で出てくる理由
カレンダーアプリや暦のサイトは、何十年も先の春分の日を平気で表示します。あれは告示された日付ではなく、近似式で計算した値です。よく使われるのは、基準年からの経過年数とうるう年の回数から日を求める形の式です。この道具棚の営業日計算や今日の暦も、年ごとのデータ表を持たずにこの方式で春分日と秋分日を出しています。
近似式が信用できるかどうかは、実際に突き合わせないと分かりません。2026年9月9日に、国立天文台が公開している2004年から2027年までの暦要項24年分を取得し、この道具棚が使っている式の答えと1年ずつ比べました。24年すべてで日付が一致しました。 上の表の11分差や14分差の年も含めて、外れはありませんでした。
ただし一致したことと、告示であることは別です。式の有効範囲(この実装では1980年から2099年)の中でも、先の年ほど誤差の効き方は読めなくなります。日付の境界まで11分しかない年が現実にある以上、近似式の答えが将来のどこかで告示と割れる可能性は残ります。
参考までに、この式が1980年から2099年について出す日付の内訳はこうなります。
- 春分の日 — 3月19日が2回、3月20日が85回、3月21日が33回
- 秋分の日 — 9月22日が42回、9月23日が78回
3月21日は2055年が最後で、そこから先は20日と19日だけになります。秋分が9月22日になる年は、この範囲では2012年が最初です。2044年まではうるう年だけに現れ、2045年から平年にも入り始めます。前の世代が「秋分は23日」と覚えていたのは、その人が生きてきた年にたまたま22日が無かったからです。
実務でどう扱うか
- 来年度の予定表を作るときは、その年の暦要項が出ているかを確かめます。2月より前に翌々年の日程を組むなら、春分の日と秋分の日だけは仮の日付です。
- 契約書や規程に「春分の日」と書くぶんには問題ありません。日付を書き写すと、告示と食い違ったときに直す必要が出ます。
- 連休の日数は春分・秋分の日付で変わります。9月のいわゆるシルバーウィークは、敬老の日と秋分の日の並びで形が決まるので、日数計算で年ごとに数えたほうが確実です。
祝日法が「春分日」の三文字で済ませているのは、手を抜いたからではありません。日付を決める仕事を天文の側に渡し、毎年その答えを受け取る形にしてあります。年によって動くのは、その仕組みが正しく働いている証拠です。