クロスワードはどう作られるか — 盤面の対称性と、カギに答えを漏らさない作法

新聞や雑誌のクロスワードを見ると、黒マスの散り方に見覚えのある感じがあります。紙を180度回しても、黒マスの形が変わらないように置かれているからです。この決まりは飾りではありません。盤面が埋まるかどうか、そして作り手が持っていなければならない語彙の量を、はっきりと左右します。この記事では、今日のクロスワードを毎日1問ずつ作っている装置の実測値を使って、その事情を具体的な数で見ていきます。

黒マスは「置く」のではなく「決まる」

クロスワードの作り方は、絵を描く順番と逆です。先に黒マスの配置(テンプレート)を決めて、そのあとで全部の白マスを言葉で埋めます。言葉を並べてから隙間を黒く塗るのではありません。

理由は、白マスの制約が想像よりきついからです。クロスワードの決まりでは、縦と横のどちらについても、2マス以上続いた白マスはすべて単語になります。つまり1つのマスは、たいてい縦の単語と横の単語の両方に属します。1マス直すと2つの言葉が同時に壊れる、という関係が盤面じゅうに張られている状態です。ここへ後から黒マスを足すと、その両側で単語が分断されます。だから先にテンプレートを固定します。

180度回転して重なる形にするのは、この段階の作法です。回転対称にしておくと黒マスが盤面の片側に偏らず、極端に短い単語の列や、盤面の隅だけが孤立した島になる形を避けやすくなります。

対称にすると、黒マスは減らせない

装置では黒マスの枚数を13枚から18枚まで、対称な形を先に、非対称な形を後に試しています。試すだけでは採用しません。実際の辞書で2回続けて埋まった配置だけを通すという関門を置いてあります。

結果は分かりやすいものでした。13枚・14枚・15枚のテンプレートは1つも通らず、通ったのは16枚が2つ、17枚が3つ、18枚が4つの計9つです。黒マスが少ないほど白マスは増え、白マスが増えるほど交差が増え、交差が増えるほど「その位置にその文字を持つ語」が要ります。7×7で黒マス15枚を埋め切るには、この装置が試し埋めに使う2,605語では足りませんでした。密度を上げたければ、盤面の工夫ではなく辞書を厚くするしかありません。

採用した9つのうち8つは回転対称で、1つだけ非対称です。日替わりで回しているので、生成済みの128日分を数えると117日が対称、11日が非対称になります。非対称の1つを残したのは、対称の枠だけでは選べる盤面が8種類しかなく、毎日同じ形の並びが続いてしまうためです。対称性は目的ではなく、埋まる盤面を選ぶための手段だと割り切っています。

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短い言葉ばかりになる理由

128日分のスロット(連続した白マスの並び)を長さ別に数えると、次のようになります。

3文字が突出して多く、6文字と7文字は合わせても53本しかありません。7×7の高密度な盤面では、これが自然な分布です。長い単語を1本通すと、それが横切る縦の列すべてに文字が確定してしまい、そのぶん残りの自由度が消えます。長い言葉を増やしたければ黒マスを増やすしかなく、黒マスを増やせば密度が下がって手応えのない問題になります。盤面の見栄えと埋まりやすさは、ここで正面からぶつかります。

カギ文は、機械では守り切れない

盤面ができれば問題が完成、ではありません。むしろ事故はカギの側で起きます。

この装置では2026年8月に、ヨコのカギに「がんばった人に与えられるご褒美の…」という文が出てしまったことがあります。答えは「ホウビ」でした。カギの検査は入れてあったのですが、見ていたのはカタカナとひらがなの表記だけです。「褒美」という漢字は答えの「ホウビ」と文字として一致しないので、機械はすり抜けました。

このとき3,117件のカギ文を総点検して25件を直しています。内訳は、答えが漢字で丸見えになっていたもの、「人気者と書く」のように読みが誰でも分かる漢字を提示していたもの、文が途中で切れていたもの、語義が別の語の説明になっていたものでした。

そのあとで加えた規律は3つです。第一に、カタカナとひらがなの漏れは読み込みの時点で自動的に弾き、その語を使わない。第二に、「〜と書く」型のカギは、難読漢字でなければ使わない。第三に、語彙を足したら必ず目で読み直す。機械の検査は網の全部ではなく一部にすぎない、というのがここでの結論です。

二重マスという、もう1つの制約

この装置のパズルには、盤面に散らばった番号付きのマスの文字を順に集めると答えになる仕掛けがあります。128日分の答えの長さは、5文字が62日、6文字が46日、7文字が17日、8文字が3日です。

これは盤面が埋まったあとに乗せる制約なので、いちばん厄介です。ふつうに埋めた盤面の狙った位置に、狙った文字が並んでいることはまずありません。装置は、交差しているマスを固定したまま、1つの単語にしか属さないマスだけを差し替えるという方法で必要な文字を注入します。テンプレートを選ぶときに「1つの単語にしか属さないマスが8個以上あること」を条件に入れてあるのは、この差し替えの余地を先に確保しておくためです。

盤面の対称性と同じで、これも見た目の話から始まって、最後は「どれだけ自由度を残しておくか」の話になります。クロスワード作りの制約は、たいていそこへ行き着きます。

最終更新: 2026-09-04

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